kiss your…

二 四方に聳ゆる山々は
  御嶽乗鞍駒ヶ岳
  浅間は殊に活火山
  いずれも国の鎮めなり
  流れ淀まずゆく水は
  北に犀川千曲川
  南に木曽川天竜川
  これまた国の固めなり

 ところで、かつて外人の評として、伊太利製のものはナポリだとかフローレンだとかローマとかを背景にするから、クラシカルなものには適当で、古代を味うには頗る興味があるが、新らしい即ち現代を舞台とする筋のものでは、やはり米国製のものであろうといっているけれども、米国製品にしばしば見るカウボーイなどを題材にしたものは、とかくに筋や見た眼が同一に陥りやすくて面白味がない。けれども探偵物となるとさすがに大仕掛で特色を持っている。しかしこれらの探偵物は、ただほんのその場限りの興味のもので、後で筋を考えては誠につまらないものである。

 その頃の上野には御承知の黒門があって、そこから内へは一切物売を厳禁していたから、元の雁鍋の辺から、どんどんと称していた三枚橋まで、物売がずっと店を出していたものだったが、その中で残っているのは菜の花の上に作り物の蝶々を飛ばせるようにした蝶々売りと、一寸か二寸四方位な小さな凧へ、すが糸で糸目を長く付けた凧売りとだけだ。この凧はもと、木挽町の家主で兵三郎という男が拵らえ出したもので、そんな小さいものだけに、骨も竹も折れやすいところから、紙で巻くようにしていわゆる巻骨ということも、その男が工夫した事だという。
 物売りではないが、紅勘というのはかなり有名なものだった。浅黄の石持で柿色の袖なしに裁布をはいて、腰に七輪のアミを提げて、それを叩いたり三味線を引いたりして、種々な音色を聞かせたが、これは芝居や所作事にまで取り入れられたほど名高いものである。